2019.10.09 歯医者のむし歯体験記 vol.06

 そういえば、脳研究の権威の先生が講演会でこんなことを仰っていました。痛みの世界は複雑で、痛みの研究をするなら研究者としての一生を棒に振る覚悟をするか、それとも自分をごまかすかとのことでした。

 本で読みましたが、痛みは記憶されるそうです。たとえば、親知らずを抜いたあとで痛みが出てから痛み止めを飲んでも効きにくいことや、戦争で手足を失った人がないはずのところが痛いと訴えるなど、睡眠もそうですが痛みは分からないことの多い分野ですね。

 貴重な経験でしたが、このように何もしなくても痛いというのは歯の神経が相当痛んでいるので、そのままにしておくわけにはいきませんし、放っておけば痛みはなくなりますが、そのときは歯の神経が死んでしまい、その次には根の周りが膿んで歯ぐきが腫れたり、ひどくなると全身に菌がまわってしまって歯性病巣感染といわれる悪さをしてしまいます。

 結局私は根の治療をしてもらうことに決め、これもぜんぷくの信頼のおける根の治療専門の先生に身をあずけました。この先生の治療もすばらしく、痛みがうそのように引いたときにはまさに神様にみえました。
 根の治療も順調に進み、冠をかぶせてもらって昔どおりに何不自由なく、食べることを楽しめました。

 ところが、その快適さも長くは続きませんでした。ある日の焼肉やでの飲み会のときに不覚にも力がかかり過ぎたのでしょう。次の日、目覚めると左上の歯ぐきがぷっくりと腫れていたのです。この場合、まず考えられるのが歯の根が割れていることです。希望的に考えれば、根の中に汚れが残っていて、それで急性炎症を起こしたことがあります。私の都合の良い診断は相当我慢した神経の痛みなので感染が進行していて、根の治療ではきれいにしきれなかったということでした。それで、無理をいって再治療をお願いしました。
 その結果、腫れはすぐに引いて一安心でした。

 でも、しばらくすると歯の根もとを舌で触ると何だか変なのです。心配になって、さっそく自分で顕微鏡で見てみると根が割れているのがはっきりわかりました。これはまさに抜歯の適応です。あとは本人の決断次第ですが、咬めないとか腫れているとかいう気になる自覚症状はありませんから、これで抜いてもらおうと決める患者さんというのはとても決断力のある人なんだなあと人の心の難しさを痛感しました。