2018.10.03 歯医者のむし歯体験記 vol.05

歯が外れたことがある人なら分かると思いますが、あれはあまり気分の良いものではないですし、何で旅行中とか楽しいときを見計らったように外れるんでしょうね。
 その歯は15年ほどもごまかしごまかし使ってきましたが、いよいよ治療が必要になってしまいました。2000年に歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を導入し、そのすばらしさを十分に感じていましたので、その歯の治療をしてもらうのはもちろん顕微鏡を使ってと思っていました。そこで白羽の矢が立ったのは友人でほぼ同じ時期に顕微鏡歯科にのめりこんだM先生でした。

 彼とはその以前からの知り合いで、顎関節症の勉強を一緒にしてきた間柄です。歯科顕微鏡を導入した頃はユーザーは全国では数えるほどで、顕微鏡歯科に関した講習会や書物もほとんどなく、自分で使いこなして覚えていくのが上達の道でした。
 そこで私たちはお互いの治療の様子をビデオに撮って送りあい、それを見て批評し合い、それぞれの技術を高めていきました。こういうと格好良いですが、男同士のビデオ交換日記でしょうか。

 案の定、M先生の治療はすばらしく、安心して任せられるものでした。しかし、残念ながら今までのごまかしのしっぺ返しで、歯の中のほうはむし歯が進んでおり、歯には亀裂も入っていました。M先生の「詰めるのではなく、冠をかぶせた方がいいんじゃないですか?」という今思うと的を得た言葉に、1日で終わってほしい希望のほうが勝ってしまい詰めてもらうことにしました。でも、この時の安易な決断が後の後悔につながってしまいました。

 しばらくは詰めてもらった歯は快適で、食べるときにも何の支障もありませんでした。ところが、何年か経って詰め物が欠けることが起こるようになり、しまいにはある日とうとう何もしなくともジンジンと痛むようになってしまいました。とりあえず、痛み止めを飲みましたが、あれほどひどかった痛みがうそのように止まったときには感謝感謝でした。

 医者の不養生とはこのことだなと思っていましたら、今度は左上の奥歯が痛いはずの歯なのに左下の糸切り歯の先端がしみるのです。
 これは専門的には連関痛というもので、痛みを感じる神経のつながりから、実際と異なるところに痛みを感じる現象です。診察していても明らかなむし歯があるのに、それと違う歯が痛いんですと患者さんが訴えることが時々あります。これはなかなか経験できないことですので、なるほどこれが連関痛なのかと痛みをそっちのけでちょっとだけほくそえみました。